1.5 科学技術の智を作成する際の前提と基本的な考え方

科学技術の智を論議する場合には、一般的な前提として、次のことを置く。

(1)現代社会における科学技術の意義を問う。

(2)人間にとっての意味を考える。

(3)白紙の状態から考え、先入観を入れない。

(4)現在の教育の限界を考えず、理想型を求める。

(5)本質的な知識と能力の中核部分だけを明示する。

(6)対象としてすべての成人を考える。

(7)日本の科学技術の現状、伝統、感性、文化を踏まえる。

このような前提を置いた上で、わが国で科学技術の智を作成する場合には、それが人々に受容されやすくするために、わが国の現在の時代的背景、文化的背景などを踏まえたものとしなければならない。わが国で科学技術の智を作成するための基本的な考え方は次の通りである。

 

1.5.1 日本人の感性や伝統を考慮する

日本人にとって、関心事であることが必ずしも世界的な関心事と一致しないこともあり得るし、またその逆も言える。例えば、日本人が発想してきた生物の分類は、人間との関係性の中で考えられている。また、日本では自然を大切にし、自然と調和して生活しつつ自然を使いこなす技術は極めて高いものがある。一方で、原理的問いかけや発想が少なかったと言われている。このような日本人の感性、伝統を踏まえつつ、目指すべき科学技術の智を構築することこそ、日本のすべての成人が科学技術を身近なものにする要諦といえよう。

 

1.5.2 新しい時代の科学技術に即応する

近年、情報環境が大きく変化し、情報へのアクセスが容易となった。それは、情報の公開、共有という点では民主主義社会の基盤の充実に寄与しているものの、一方で一瞬にして情報が世界を巡り、情報の乱用、情報の操作、情報の占有等によって、民主主義の根幹が揺らぐことになるという問題も抱えている。

また、デバイスの開発も急速に進んでおり、電子デバイス、光デバイス、分子デバイス、分子制御による機能分子の開発など、分子レベルの物質制御によって様々な人工物をデザインし創り出すことができる時代に私たちは生きている。そして、その影響については予測できない部分もある。環境問題も京都議定書を契機に世界的な課題となっている。炭酸ガスの排出過多、水質保全、地球温暖化、異常気象など、地球規模での持続可能性に関する課題が出現してきていると思われる。

また、技術、科学、芸術が融合して、生活の質、豊かさを求める感性を大切にすることも重要となってきている。例えばモルフォ蝶の色の研究など、自然の美しさを読み解くような科学と技術のあり方が人類の感性をさらに豊かにするものと期待される。

さらに、科学と技術との相互依存関係が深まり、「科学を基にした技術」、「技術を基にした科学」の関係を越えて、科学と技術との境界が融合した「科学技術」が深く浸透しているとの認識を踏まえる必要がある。

 

1.5.3 技術も重要な柱とする

日本では技量が重視されてきたという歴史的事実を踏まえて、「技術」も重要な柱として位置づけることが必要である。すなわち、日本における経済発展の原動力としての技術の位置づけや「ものづくり」の伝統、「技術リテラシー」の議論などから、これから作成する科学技術の智においては、技術も重要な柱とすべきである。

 

1.5.4 成人段階で考える

科学技術の智においては、成人段階を対象に考えている。成人とは、社会の構成員として責任ある個人という意味であり、年齢を特定するものではない。すなわち、具体的には、高等学校までの教育だけでなく、大学の教育のあり方および生涯教育をも視野に入れる。

 

1.5.5 専門分野を総合する

科学技術の智の作成のための基礎的検討は、専門分野別の結果を踏まえて、総合的に作成する。