1.3 21世紀を豊かに生きるための科学技術の智の必要性

人間は、自分たちはどこから来て、どこにいて、どこに向かっているのかと問いかけ続けてきた。その問いかけによって得られた知識の体系、認識の方法は、人類共通の文化であり財産である。自然科学と人文社会科学という分け方にとらわれることなく、人類の財産を基本的な素養として共有していくことが重要である。科学技術の智もその一つであり、これまで幾世代も継続してきたように、これからも継承発展させていかねばならない。

科学技術は、単に科学研究者、技術者だけが関わるものとしてではなく、その功罪を含めて、社会・経済・政治などの関係性の中で考え、社会全体の文化資産として次世代育成の視点からも考えていくべきである。そこでは、伝統的な文化や宗教、習俗に根ざした自然観、感性の中に、智の可能性を探ることも重要となる。

つまるところ、このプロジェクトとしては、社会を構成する個々人が、持続可能な民主的社会を創出するために共に社会の一員という自覚を持って決断し行動するための力となるような科学技術の智慧とは何かを明らかにしたい。現代社会で求められているのは、それぞれ高度化した科学技術研究の現場を担う専門家だけではなく、科学技術の素養を持ちつつ、みずからと社会全体の豊かさを追求していける個人なのである。

現代のわが国において、科学技術の智を作成する意義・必要性は、次の四つにある。

 

1.3.1 科学技術についての判断

現代においては、科学技術と社会は密接につながっており、人々は日々進歩する科学技術の恩恵を享受する一方で、環境問題や人口問題、情報技術革新など地球規模の持続可能性に関わる科学技術のあり方について判断を迫られることが多い。したがって、基本的な知識、考え方を人々が共有することにより、判断の根拠を共有できることが望ましい。

 

1.3.2 科学技術についての世代間の継承

社会における科学技術について、人々が民主主義社会において共通な基盤で考え、豊かな世界を構築していくために協働するには、科学技術についての知識や物の見方を次世代に継承して、世代間で共有していく必要がある。

 

1.3.3 学校教育における理科、算数・数学、技術の学習の長期的展望

小学校・中学校・高等学校において、理科、算数・数学、技術を学ぶ目的が問われ始めている。児童・生徒は、これらの教科をあまり楽しんではおらず、また、これらの教科と現実体験との関係も見出せずにいる。私たちは、知識が智となっていく過程を重視し、長期的展望の中で教科を活かしていかなければならない。小中高校における理科、算数・数学、技術の学習の目的について児童・生徒に長期的展望を示すことが必要である。

 

1.3.4 科学技術教育の生涯にわたる目標の俯瞰

変化の激しい社会において、人々は生涯にわたって学ぶ必要がある。人々は自己実現を目指すようになってきており、生涯にわたって多様な学習の進路を用意することが求められるようになってきている。