要 約

科学技術の智プロジェクトは、これまで人類が蓄積してきた智を踏まえた上で、21世紀を心豊かに生きるにあたり、「持続可能な民主的社会」を構築するために万人が共有してほしい科学技術の智を検討し成文化することを目的として行われた。

ここでの科学技術の智(または、科学技術リテラシー)とは、「すべての大人が身に付けてほしい科学・数学・技術に関係した知識・技能・物の見方」である。

このプロジェクトは、平成18年・19年の科学技術振興調整費によって行われたプロジェクトであり、約150名の科学者、教育者、技術者、マスコミ関係者等が参加した。

 

科学技術の智は、既存の学問あるいは教科の枠組みを超えて、新たな智の枠組みとして七つの領域の形で提案する。すなわち、

数理科学、生命科学、物質科学、情報学、宇宙・地球・環境科学、

人間科学・社会科学、技術、

である。

科学技術の智においては、いわゆる物理・化学・生物・地学という従来の固定的な専門分野にこだわっていないだけでなく、技術を一つの領域とし、さらに、情報学、人間科学・社会科学をも含めた。

ただし、これら七つの専門分野は決して独立した存在ではなく、総合的な科学技術の智を目指すための七つの入り口にすぎない。

 

科学技術の智は、上に示した七つの領域で示されているが、それらはそれぞれ次のような共通の視点に基づいて具体化されている。

(1)人間社会を軸に構成されている。

(2)ストーリー性を持って構成されている。

(3)現在から将来を視野において構成されている。

また、科学技術の智を全体的にそして視覚的に捉えるために、人間や社会と科学技術の智との関わりを展望する図、曼荼羅(まんだら)が作成されている。

 

このような科学技術の智は、20世紀後半からの科学技術の歴史的な事実、現代の科学技術に共通の考え方、科学的な態度・センス、という視点から見ることができる。

20世紀後半からの科学技術の歴史的な事実としてここでは、人間についての科学的理解、情報処理革命、ナノテクノロジー、生命の仕組みの解明と操作技術の開発、宇宙モデルの確定、地球環境についての科学的理解、の六つに分けて考えている。

また、現代の科学技術に共通の考え方としては、総合的視点に立つ選択、多様性と一様性、可視化、スケールとサイズ、多量データ高速処理のアルゴリズム、科学と技術の相互貢献、の六つを取り上げた。

科学的な態度には、科学にとって必要不可欠な資質(好奇心、批判力・懐疑力)、科学が持っている特質(証拠・論拠依存性、理論的・数的志向性、暫定性)、科学的な活動の特質(自己限定、科学者共同体管理、公開性、公共性)の三つがあり、日常生活において、科学的な知識や見方・考え方が必要な場面を適切に判別できるセンスの重要性を挙げた。

 

科学技術の智は、現実世界の問題の分析や解決に応用していく上で有効である。

現在、地球規模で直面する緊急の問題には、水問題、食料問題、エネルギー問題などがある。科学技術の智は、これらの問題について現在まで何が分かっているのか、将来何をしなければならないのかを明らかにすることができる。

 

このような科学技術の智を、2030年を目指して定着・普及させる。

科学技術の智プロジェクトでは、今の時代に生まれた子どもが2030年に成人として社会を背負って立つ時点で、科学技術の智が社会全体に行き渡っていることを願っている。

そのために、

(1)科学技術の智プロジェクトを今後も継続させる。

(2)科学技術の智を定着するための戦略を策定し実行する。

(3)科学技術の智を共有するためのネットワークを構築する。

過去20年の変化よりも、今後の20年の変化の方が激しいであろう。私たちはその変化に備えなければならない。変化を克服し、将来にわたって人類と地球が共存し、科学技術の智を身に付けた人々が、心豊かに生きることのできる社会を構築することを願ってやまない。

未来の子どもや社会に責任を持つ私たちは、科学技術の智を定着・普及するために今こそ立ち上がるべきである。